「標的の島 風かたか」を観て

カリフォルニア在住で環境教育者、映画監督でもあるMiho Aidaさんが「標的の島 風かたか」についての文章を書かれています。素晴らしい内容でしたので、ご本人に承諾を得て掲載させていただきます。
中島
「映画は、educate(教育)、enlighten(啓発)、entertain(楽しませる)をしなければならない」と、2017年アカデミー賞の最優秀映画賞候補に上がった映画「Hidden Figures」 のメルフィ監督が、昨年12月のNASA(アメリカ航空宇宙局)での記者会見で言った。「最近の映画は観客を楽しませるばかり。でもそれだけではだめだ。教育し、人々を啓発して、目覚めさせないと」
今、日本人は、自由や平和という幻想から目覚めなければならない。その目覚ましに挑むべく公開されたのは、三上智恵監督の新作映画「標的の島 風かたか」だ。映画は、南西諸島の自衛隊配備、辺野古新基地建設、高江オスプレイ着陸帯建設に、真っ向から立ち向かう沖縄の人々の勇姿を描く。そして、南の海で繰り広げられるこの軍拡は、日本列島が米軍の要塞となる「エアシーバトル構想」のためだということをも浮き彫りにする。それを許してしまえば、日本はアメリカの捨て石となり、戦後初めて戦死者を出してしまうかもしれないと教えられる。その瀬戸際で、私たちは平和と民主主義のために闘うという選択肢をとれるのか?「目覚めよ」とスクリーンに叩きつけられた思いは計り知れない。
「標的の島 風かたか」には、優れた映画が持つ「教育」「啓発」という二つの要素が最初から終わりまでしっかりと刻み込まれている。この映画は、日本全体が米軍の戦争に巻き込まれる道へ突き進んでいるという世相に警笛を鳴らすものなので、「楽しませる」的な要素はもちろん少ない。でも、妖怪としか思えないような泥だらけの神様が、悲鳴をあげ泣き恐れる子供に、厄除けの泥を塗りたくる宮古島の「パーントゥ」や、どうみても漫才としか思えないような裏声問答で、現世にやってきた先祖が子孫と交流する石垣島の「アンガマ」の場面では、大笑いした。本土生まれで人生の半分近くはアメリカ暮らしという私は、こうした離島の伝統文化を知らない。おまけに、どの場面で日本では笑っていいのか悪いのか。。。戸惑い周りの反応を気にしながら、それでも大笑いした。笑いながら、この島々に先祖代々から伝わる大切な生き方をこの先にも伝えてくれ、そのためには子や孫のために「風かたか」になって、戦死者を一人も出さない平和な国をつくっていこう、というメッセージが刻まれていると思った。
この映画の題名にもなった「風かたか(かじかたか)」は、沖縄の言葉で「風よけ」、という意味を持つ。沖縄三線奏者の古謝美佐子さんが自ら作詞した歌「童神(わらびがみ)」の歌詞の一節はこう詠む。
雨風ぬ吹ちん 渡る くぬ浮世 風かたかなとてぃ 産子 花咲かさ
「雨風吹くこの浮世を渡るとき、私が風よけとなって、我が子に花を咲かせてあげよう」という意味がある。日米安保条約のもと米軍基地を押し付けられ、基地があるが故に起こる事件が絶えない沖縄。思えば、戦後71年、沖縄の人々は繰り返される暴挙を防ぎ、基地をなくすための「風かたか」となろうと闘ってきた。その闘いを踏みにじるように起きた昨年春の元米軍兵による女性暴行殺人事件。映画の冒頭には、その追悼集会で古謝美佐子さんが奏でた童神が響く。そして、稲嶺進名護市長の言葉。「今回もまた、ひとつの命を救う風かたかになれなかった。。。」
この言葉を聞いたとき、喉元をしめつけるような切なさで息が止まりそうになり、渋い苦さを腹の底に感じた。それは、「わたしは沖縄のために何をしてきたのか?」「わたしは、風かたかとなって、子や孫を守ろうとしているのか?」と、自らを厳しく問わずにはいられず、その問いに対して、そうだと言い切れない自分と直面しなければいけないからだと思う。そんな自問自答をしている目の前で、「風かたか」となって頑張る人々が、次々と登場する。その中の一人、沖縄戦を生き抜き、辺野古での座り込みを続ける島袋文子さんは、戦死した人々の血で染まった水を飲み生き抜いたと語る。そんな彼女は、「私はぶれない。私がぶれたら(沖縄戦で)死んだ人に申し訳ないでしょ。」と私の心を射るように言い切る。最後のシーンでは、一人の女性が機動隊員をまっすぐに見つめる。そのまな差しは、今この場で精一杯、自分が「風かたか」になって工事を阻止するのだという気迫が感じられる強烈な視線だ。その視線を受け止めることができず、的を得ずにどこかをみつめる若者の視線。彼女から、そして現実から目をそらしたその先に見えるのは、彼がもしかしたら行かなければならない戦場だ。一見敵対している機動隊の君をも思う。
映画の中のヒーローは、ひとそれぞれ、十人十色で「風かたか」になっている。どんな形でもいい。「他人事ではない」と、この映画を観た一人一人が感じ、啓発されて行動に移したら、また再び戦争をする国へと変貌していく日本を止められると信じている。残された時間は少ない。だから今、目覚めなければ。
私も目覚めた一人として、日本と沖縄の悲劇を生む元凶のアメリカで頑張る。アメリカの軍事世界支配をなくさずにして、世界平和はありえないのだから。
3月11日(土)より沖縄・桜坂劇場、3月25日(土)より東京・ポレポレ東中野 他全国順次ロードショー
Miho Aida (あいだみほ)東京生まれ。カリフォルニア在住。環境教育者、映画監督。初作の短編ドキュメンタリー「グチャン女性は語る」は、石油開発から聖地と自然を守ろうと立ち上がる北米アラスカの先住民族グチャンの女性を描く。約30年間続く住民運動を無視し、トランプ氏と共和党有利のアメリカ議会は今年、グチャンの聖地の石油開発を狙う。それに抵抗するため、アメリカ有数の環境団体The Sierra Clubが公式スポンサーとなり、今夏4度目の米映画ツアーを計画中。

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